ミントで仁義なき爆走
「三ナイ運動」全盛期の高校を卒業して
めでたく原付バイク“YAMAHAミント”に乗り始めたのは19歳の頃でした。
通学や買い物はもちろん、
アルバイト(某消費者金融のクーポンが封入されたティッシュ配り)にも重宝。
ミントにティッシュの入った段ボールを積んで、市内のめぼしい団地を走り回っては
ポスティングをしてまわりました。(確か時給がめちゃくちゃ良かった)
小回りもきき燃費も良くて(当時はガソリンがリッター100円くらいでした)
大満足していたのですが、なんとも不思議だったのはスピードメーター。
「なんで時速60kmまで目盛が書いてあるのに30kmしか出ないんだろ?」
・・・そりゃそうですよね、原付の制限速度が時速30kmなんだから(笑)
自分はアクセルを思いっきり開けて、全開バリバリ(←古っ!)
で走っているつもりなのですが、車が邪魔そうに横をかすめていきます。
「マフラーにステッカーでも貼ってみっか。」
弟からもらった“45rpm”のシールを貼ってみましたが、とりたてて何も変わらず。
熱でシールのはじっこがペラペラと剥がれてしまいました。
そんなある日のこと。
その頃、ちょうど両親に“第二次夫婦大戦”が勃発しており(ちなみに第一次は和解)
私は別居していた父と母の家を行ったり来たりして暮らしていたのですが、
父から「おでんが上手にできたからママに持っていってやって。」とのお達し。
まだ鎹として立派な仕事をしようと健気にふるまっていた私は、
「わかった!アツアツのうちに届ける!!」と
原付ミントのステップボートにセカンドバッグと汁だくのおでんの丼を置き、
脚でエンジンとの間に挟んで、駅東に向け走り出したのであります。
父と暮らしていた家から母の貸家までは日光街道を北上して、
競輪場通りと呼ばれるゆるやかな長い坂道を下っていきます。
ここで一気に全開バリバリ(←古いっつーの!)に加速して
田川の橋を渡り(ここの欄干は道路に張り出しているので、激突注意です)
次の大きな跨線橋を過ぎて右折すれば到着です。
ところが川を渡っていい感じでスピードがのったところで信号に止められました。
頭上の赤信号を見上げていると、なにやら右後ろからダミ声が聞こえてきます。
チラ見してみると、黒光りした車のノーズとキラキラのアルミホイル。
おそるおそるバックミラーを覗き込んだら、
強面のメンズが乗車定員いっぱいいっぱい乗り込んでいる様子。
そして全員が私に向かって何かを叫んでいるようです。
「ねぇちゃん!#$%&%&#$!!」
「お~い!〇×△!!」
・・・やばい、あたし絶対なにかしでかしたぞ。
当時わたしの知る最大の攻撃は逃亡でした(笑)
信号が変わった瞬間にロケットダッシュです。
幸いにもその先は車が渋滞していたので、違反覚悟で路肩をすり抜けて走りました。
いつまでもダミ声がついてくるような気がして、
心臓バクバクのまま、母の住まいに到着し原付を降りてみると
・・・おでんは無事でしたが、セカンドバックが消えて無くなっていました。
「母ちゃん、おでん持ってきたけどカバンが無いよ。」
「え?!なにやってんの?バカじゃないのあんたは。」
昔からなんですが、良かれと思って頑張ってやったことが
たいしてありがたいと思われません(笑)
それどころかそれが叱られるチャンスになるのが私です。
「どうしよう、財布と免許証と学生証ぜんぶ入ってるのに。」
「バカだねあんたは。今すぐ来た道を探して帰りな。」
・・・またトンボ帰り。それも免許不携帯です。
帰り道のどこにもそれらしき落し物は無く、
しょんぼりと帰宅してみると今度は父と祖母が青い顔をして飛び出してきました。
「そのスジの事務所から電話があったんだよ。お前のカバン拾ったって。」
「悪いけど中を見させてもらって電話したって。本当だったんだね。」
「お前、ひとりで取りに行かない方がいいな。俺も行くから。」
(父は任侠映画が大好きなのです)
「それじゃあたしも一緒に行くよ。」
(祖母は無類の心配性)
菓子折を持って教えてもらった住所を頼りに事務所を訪ねると、
そこはまさに映画そのままの世界でした。
“そのスジの人はカタギにやたらなことはしない”と良く言われていた通りで
礼儀正しい対応をしていただき恐縮したのを覚えています。
信号待ちの車の中から怒鳴っていた強面の兄さんたちは
わたしが落としてしまったカバンをわざわざ車を停めて拾ってくれ、
それを教えようと呼びとめてくれたとのことでした。
若い衆に「ねぇちゃんのバイクすげぇ速ぇえんだもんなぁ。追いつけなかったよ。」
と言われて、可笑しいやらバツ悪いやら。
そして先輩のFZRへの羨望と
詳しくはこちら→原付ライダー中型二輪への道 - もふもふアークエンジェルと白い鉄馬のお話
この事件(?!)を期に、
もっと大きくて速いバイクへの憧れが芽生えたのでした。